なぜ日本の金融機関はポイントソリューションを好むのか

既存システムの安定性や部門の自律性、経営層のカスタムレポートへの期待から、日本の金融機関は統合型プラットフォームよりポイントソリューションを選好する傾向にある。

そのため、全体統合よりも、既存業務フローを維持しつつ段階的な更新を可能にするモジュール型アプローチが重視される。さらに、調達プロセスでも特定用途に特化したツールが優先され、成功にはローカル対応のUIと経営陣の要件充足が不可欠である。このように、日本市場においてポイントソリューションは単なる妥協ではなく、明確な戦略なのである。

統合型システムの普及と日本の例外

多くの国々では、金融機関が取引、コンプライアンス、リスク、レポート作成などを一元的に管理する統合型プラットフォームを採用する傾向が強まっています。代表例として、BlackRock社のAladdin(アラジン)システムが挙げられます。

しかし日本の銀行や保険会社では、統合型プラットフォームよりも、特定課題に特化した『ポイントソリューション』が主流です。

これは、必ずしも日本企業が技術的に遅れているからではありません。むしろ、各部門が独立して意思決定を行い、経営者が報告形式に強いこだわりを持つという組織文化と、ポイントソリューションが親和性を持つためです。

機能 主なポイントソリューション・ベンダー
VaR、信用リスク、ストレステスト RiskMetrics(MSCI)、NRIのRisk Manager、Aladdin Risk
債券アナリティクス Bloomberg PORT、FactSet、NRI BondSim、Aladdin Portfolio Analytics
注文管理システム(OMS) I-STAR(野村総合研究所)、Bloomberg TOMS、Aladdin OMS
コンプライアンス監視 I-STAR/SCT、TORA Compliance、Aladdin Compliance
パフォーマンス分析 QuickのAttriStation、BNY Mellon Eagle、Aladdin Performance Attribution
ファンド会計 TIS、I-STAR、NTTデータ、Aladdin Investment Book of Record (IBOR)
ESGデータとスコアリング Sustainalytics、ISS ESG、日経ESG、Aladdin ESGデータパートナー(限定的な連携)

レガシーシステムと組織文化

日本の金融機関では、数十年前のメインフレームやバッチ処理といったレガシーシステムが現役で動いており、特注コードも多いです。これらのシステムは、安定性と信頼性が高く、置き換えるには大きなコストとリスクを伴います。

また、こうしたシステムは長年にわたり、日本独自の意思決定プロセスや報告書文化に適応してきました。あるリスク管理部門のマネージャーは、「CRO(最高リスク責任者)が求めたのは、日本語で色分けされた表で、小数点以下6桁まで表示されたレポートだった。標準のダッシュボードでは対応できなかった」と語ります。

独立性の高い部門構造

日本の金融機関では、リスク管理、トレーディング、コンプライアンス、経理など各部門がそれぞれ独自にツールを選定する傾向があります。ソフトウェアやデータの共有はあまり行われず、部門間の統合が難しい構造になっています。

大阪の地方銀行のCIOは、2023年に統合型プラットフォームを半年かけて評価したものの、最終的には各部門がそれぞれ異なるポイントソリューションを選定したと述べています。全社統合は理想ではあったものの、部門間調整のコストを避ける現実解としてポイントソリューションが選ばれました。

慎重な購買プロセス

日本では、新しいソフトウェア導入には明確な目的と予算が求められます。そして提案内容が大規模かつ複雑である場合、導入リスクが高いと見なされ、導入が見送られるケースが多いです。

あるリスク管理ツールの営業担当者は、「90日以内で具体的な課題を解決できる小さな製品を提案し、既存の業務を変更する必要がないと強調することが成功の鍵」だと述べています。

海外ベンダーが好んで用いる「デジタルトランスフォーメーション」という言葉も、日本の経営者には「混乱」や「過剰な変化」として受け取られることがあります。

統合よりも報告品質を重視

欧米のベンダーは、システムの統合性を重視する傾向がありますが、日本では「正しい数値を、上司が求める形式で提示すること」が優先されます。

ある保険会社では、統合型プラットフォームを試したが、UIが英語で国内基準に合わず、結局基盤システムのみを流用し、UIは内製しました。

小規模導入が与える安心感

ポイントソリューションであれば、部門単位で改善を進めることができ、全社的な合意形成を必要としません。ツールの導入が失敗しても影響は限定的であり、成功すればそのまま活用し続け。ることができま。

このように、日本の金融機関では複数のツールを併用することが一般的です。効率的ではないように見えても、現場の実態に合っており、うまく機能しています。

ベンダーへの示唆

日本市場で勝つには、日本語対応だけでなく、現地のニーズに合わせた設計が必須です。機能を細分化し、段階的に導入を提案する姿勢が求められます。

Value-at-Riskツールのベンダーは、顧客のExcelテンプレートと同様のUIを再設計し、契約を継続的に更新しています。また、ESGデータを提供する別のベンダーは、海外データではなく日本経済新聞のローカルデータを使用しています。「CFOが信頼している情報源だから」という明確な理由がそこにあります。

これらは単なるエピソードではなく、日本市場で信頼を築くための具体的な指針です。

モジュール型運用の代償と戦略性

複数のツールを組み合わせることには、データ連携や監査対応、社員教育などで手間が増えるという課題もあります。しかし、これらは単なる「妥協」ではありません。

むしろ、段階的な変革、信頼構築、リスク分散といった日本企業の意思決定様式そのものを反映しているのです。

日本市場におけるベンダー戦略

日本で成功を目指すのであれば、「プラットフォーム」を売るのではなく、「パズルの一片」を提供するべきです。そして、それをどこにどう配置するかは、顧客に委ねる柔軟性こそ、日本市場攻略の鍵と言えるでしょう。




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